向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏

「向日葵の咲かない夏」道尾秀介(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、ミステリー、ホラー、少年、夏


思わぬ良書「背の眼」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/10773782.html ]で、第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞、デビューした道夫秀介のデビュー第二作。こりゃぁ賛否両論分かれるだろうと思ったら意外と好評のみが目立つので、ちょっと意外。え?ぼく。好評が目立つなんて書いているからにはやはり辛口なほう。う〜んん、ちょっと、どうなのかなぁ。
まず、これはホラーである。これは間違いない。ミステリーだがホラー。基本的にぼくはホラーはダメ。もちろんジャンルを越えて、これはという作品はきちんと評価するがそこまでの力(ちから)は感じなかった。次いで無意味な少年愛もいけない。ここはたぶんにネタバレにつながるので詳しく触れないが、作品に必然であればともかく、人の興味を惹くためだけにこういうネタを使うことは個人的には評価しない。本読み人として、まったくもってダークな話を認めないという訳でもないが、ダークさはその作品に必然なものであって初めて許されるものであり、単に流行だからとかで使用されるのは、どうもダメ。基本的に明るい向日性の物語が好き。そういう意味でこの作品は、確かに主人公(少年)の成長の物語ではあるがぼくは買わない。
尤も、ある少年の物語としてこの作品を評価している意見に敢えて反論をするつもりもない。そういう読み方にも納得できないわけではないから。ぼくがダメなのは、あくまでも枝葉がダメ、つまりひっかかってしまったからだけである。


最近、僕ミチオの住むN町ではおかしな事件が続いていた。犬や猫の死体が立て続けに見つかり、それらの死体は後ろ足の関節を逆方向に折られ、口に白い石鹸を押し込まれているのだ。
夏休みを明日に控えた終業式の日、学校を休んだS君に届け物をするために僕はS君の家に立ち寄った。そこで見つけたのは変わり果てたS君の姿。ロープを首に巻き、半ズボンの間からポタポタとたれた水溜り。慌てて学校に戻り、先生に伝えた。とにかく気をつけて自宅に戻れと先生は言う。家にもどった僕を待っていたのは、三歳だが随分大人びた話をする妹のミカ。お母さんは外でパートに出ている。お母さんは僕を憎み、ミカばかり可愛がる。ゴミを貯め、それは家からあふれ出し庭までも侵食する。ゴミの腐った臭いもお母さんには気にならない。僕や、お父さんがゴミを捨てようとすると、勝手なことをすると怒鳴る。お父さんはもうすっかりあきらめてしまった。
担任の岩村先生と刑事さんが家にやてきた。S君の家にS君の死体はなかったという。確かに床に排泄物を拭き取ったあとはあったみたいだが、。そんなバカな、僕は確かに見たんだS君の死体を。先生と、刑事さんに僕が語るのを、陰からこっそり聞いていた、家に帰っていたお母さんは、ぼくをなじった。また嘘をついたのね。ぼくは嘘なんかついてない。
ミカと一緒に、トコお婆さんを訪れた。トコお婆さんは、近所に住む不思議な力を持つお婆さん。そしてぼくたちにヒントをくれた。
古瀬泰三はSの家の近くに住む、妻を亡くし一人暮らしをする定年退職した老人。家の裏のクヌギ林の温度と湿度のデータを毎日集めて、農業大学に送るアルバイトをしている。お金のためではない、何かのかたちで人と関わりたかったのだ。ある日、自宅の玄関の呼び鈴がなった。警察を名乗る二人が、S君が行方不明だと近所の各家に事情聴衆に来たのだという。
僕がミカと話していると、突然S君の声が聞こえた。二階の僕の部屋に戻ると、そこにはS君の生まれ変わりがいたのだった。不思議なことだけどそういうことがあってもいいじゃない、妹のミカはとくに驚くことなく受け入れた。S君は僕たちに自分はある人に殺された、そして消された自分の死体を探して欲しいと頼むのだった・・。
S君と妹のミカとともに、S君の死の謎を解こうとするミチオ。そしてS家近くに住む古瀬泰三。S君の死の真相は?そしてS君が自分を殺した犯人と名指した者は?N町の奇怪な事件を絡めて事件の謎が解かれていく、驚愕の真実。まさか、そんな・・。


物語は、主人公である小学校4年生のミチオのモノローグと、古瀬泰三という老人を中心に描くパートに別れ進む。そして二人は出会い、謎が解かれる。本当の犯人は誰だ?なぜ死体は隠されたのだ?


一見ジュブナイルのような主人公の語り。しかし、子どもには読ませたなくい悪意ある大人。街の図書館にあった少年嗜好小説。それを書いた者が犯人なのか?その小説の作者は、この街に住むものらしい。そしてその者の正体が明かされる。
表現の自由は認めるが、あの小説を、主人公が住む街の作家として図書館が蔵書するのは、ちょっと無理がないか。それは小説、虚構だとしても、ああいう立場の人間がああいう小説を書いていたら、そりゃあ幾らなんでも公にしたらマズイでしょ。さらに、それは冒頭に書いたとおり、決して本作品に必然のエピソードじゃない。なぜ作家がここで書かなきゃいけなかったのかわからない。そして彼の性癖は結局放置されてしまう。少なくとも作品で書かれたなら、彼はそのことで糾弾されるべきではないのだろうか。


ミチオの物語。救いはあったのか。
決して悪い作品ではない。巧い部類なのだろう。しかし僕は買わない。未読の方は、ぜひ自分の目で確かめて見て欲しい。そして、どんな感想を持たれたか教えて欲しい。


蛇足:オビにある『本気で「物語をつくる」ってのはこういうことさ!」「分類不能」「説明不可」「ネタバレ厳禁!」「超絶・不条理ミステリ(でも、ロジカル)。」』ってのはどうなのだろう?
このオビを見て、おそらく本読み人の多くは例えば、霞流一とか、殊能将之とかのバカミス(褒め言葉です!)を想像するし、期待するだろう。でもこの作品は、どう見ても正当派のホラーミステリーでしょ?一般的に、分類できちゃうし、説明できちゃうし、勿論ネタバレは厳禁(マナーです)だし、不条理・・は、ちょっと違うよね。どうも、こういう売れるためだけに創ったいい加減なオビは、結局作家が創ったものでないにしても作品の価値を下げるだけのような気がする。
どうなんでしょうね?
蛇足2:この作品の語り手も”ミチオ”なんですね。前作同様・・。