神秘の短剣-ライラの冒険シリーズ2-

神秘の短剣 (ライラの冒険シリーズ (2))

神秘の短剣 (ライラの冒険シリーズ (2))

「神秘の短剣-ライラの冒険シリーズ2-」フィリップ・プルマン(2000)☆☆☆★★
※[933]、海外、ファンタジー、児童文学、パラレルワールド


!詳細な(?)あらすじあり。未読者は注意願います!!


この作品はおもしろかった。わくわくして読んだ。前作「黄金の羅針盤」がそれほど評価できなかったので、敢えてレビュー[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/29431277.html ]に追記をせざるをえないほど。だって、追記しないのはフェアじゃない。本作品はライラの冒険三部作の第二部。結局、前作は良質の長編物語の例に漏れず、冗長ともいえる序章であり、本当の物語を語るための足固めにすぎなかった。
しかし最近のファンタジー作品は、そのよしあしは別としてどうもページ数をかけるのが流行(はやり)のように感じられる。尤もこれは指輪物語の大ヒットを契機としたファンタジー作品の大流行ということも関係があるのだろう。このブログの中でも何度も語ってきたことだが、ファンタジーという言葉を指輪物語のJ・R・R・トールキンの言葉を借りて語るなら、別世界を構築すること。そのためには流れとしての物語とは別に、別世界を構築するための描写が必要となる。この作品もその例に漏れず、前作が525ヘページ、本作が421ページ、そして現在読み進めている最終巻第三巻で668ページとなる大長編となっている。この辺りが、読者を選ぶファンタジーの一要因であることは痛し痒し。
しかし本作品は長編の割にはさくさく読めてしまう。それがいいことなのか悪いことなのかは各人の判断に委ねるが、どこかで映画的なという評価を見た。言いえて妙。物語はまさしく映画的に進む。そしてまた2007年には本当に映画化され公開されるらしい。勝手に並行して進めている「スタジオ・ジブリ映画公開前にゲド戦記読んじゃおうキャンペーン」ではないが、映画化前に読んでおくのもオススメかもしれない。なお先人の(大げさだな)注意として、できるだけ三部作まとめて読むことをオススメしたい。このレビューを書くために、メモを取りながら読んできたが、それでもちょっと間を空けて読んでしまったため誰が誰だか分からない部分が多々あり、前作をひっくり返さなければならなかった。それは第三部に読み進めても同じこと。二部以降は、幾つかの場所で物語が並行して進む。最後にひとつの大きな流れにまとまるのだろうが、とにかくめまぐるしく、また登場人物も多数。混乱する。裏表紙や見返しに人物紹介が欲しいところ。いやホントに。
何度も言うが本作はライラの冒険三部作の第二部、この作品単体では判断できない。この作品だけで読む人もいないだろういが、読むならぜひぜひ三部まとめて読む気概で読むことをオススメする。尤も、そういうぼくがまだ三部作全部を読み終えていないので、最終的に本当にオススメかどうかはいまだ断言できない、しない。ただ、少なくとも第一巻でやめるのは惜しいし、もし裏切られるとしても全三部読み切ってから判断しても充分だろう。少なくともこの第二部はまさしく映画的にエンターティメント(娯楽)として充分楽しめる。それだけを目的に読んでもそれだけの価値、力(ちから)はある。
さて問題はその後。言いおおせて何かあるのか、ないのか。正直、読中感からすると、申し訳ないがちょっと怪しいような気がする。いやいや、思い込みの偏見はダメだ、最後まで読んで判断しよう。


というわけで、いつものごとくあらすじだが、この第二作は、幾つもの場所、幾人かの主要人物のそれぞれ物語(エピソード)が語られる巻。421ページのあれやこれやをレビューのひとつで詳細に紹介できるとは思えない。かなり要約するつもり。しかし、書き始める前(まとめる作業前)からかなりげんなり。実は読了後二週間たって、レビューにかかれなかった最大の理由はそこ。我ながらレビュースタイル変えたくなる。ホント。(この前のゲド戦記2「こわれた腕環」の読了のほうがずっと後。あれでさえ、レビューまとめるのに三日間かかっている(苦笑))


!で、詳細(?)なあらすじ!!


『「神秘の探検」は「黄金の羅針盤」からはじまった全三巻の物語である。
あの第一巻の舞台は、われわれの世界と似ているが異なる世界だった。
この巻はわれわれの世界からはじまる。』


冒頭にある作者の言葉の通り、この巻は「われわれの世界(現実の世界)」と、ライラのいた世界と現実の世界の間にある「チッタガガーゼの世界」の二つのパラレルな世界が舞台になる。この作品では、こうしたパラレルな世界が幾つもあり、それぞれの世界は窓と呼ばれる入り口や、あるいは裂け目でつながっているらしい。それぞれの世界は、それぞれの規則で存在しており、似て非なる世界、例えばライラの世界には守護霊たるダイモンのいる世界、チッタガーガーゼの世界はおとなの生気を吸い取るスペクターというモノのいる世界。そしてまた、天使や、魔女がいる世界が舞台である。
この物語では、前作のライラに続き重要な主人公としてウィルが現われる。母親とふたりで暮らす少年ウイル。父親のジョン・パリーは有名な探険家だと母親はいうが、家にその痕跡は残されていず、常々疑問に思うウィル。そんなウィルに母親は、いつかはウィルもお父さんの歩んだ道を辿り、その志をついで偉大な人間になるはずだと語る。幼い頃から、母親は何かを恐れるように暮らしてきた。そしてある日男たちがやってきた。父のことを尋ね、何かを探しにきたのだ。二度目に男たちが現われたとき、彼らが探しているのは母が大事にしまっていた緑色の皮の文具箱と気づいたウィルは、それを抱え逃げる弾みに男たちの一人を階段からつき落とし、殺してしまう。
街から逃げ、オックスフォードに辿り着くウィル。そこでネコに導かれ、空間が切り取られたような不思議な窓を発見、通り過ぎた先は、人影のまるでない、ヤシの木の並木の海沿いのリゾート地のようなところ。そこでウィルは毛を逆立て、歯をむくヤマネコを連れた、ぼろぼろの服を着た汚れた少女と出合う。ライラ・シルバータン。この物語のもうひとりの主人公。ヤマネコからオコジョに姿を変えたのは、ライラのダイモン、パンタライモン。ダストに導かれてやってきたライラは、缶入りのコーラも知らなければ、料理は使用人が作るものだという。彼女の言うダストというものの正体を探ることが目的だと語る。その夜ウィルが寝た後、真理計でウィルを探るライラ。真理計は<人殺しだ>と答えた。しかしライラはウィルがあのよろいをつけたクマ、イオレク・バーニソンのように安心できる相手ということを感じていた。
一方、ライラと子ども救うためにスバールバルまで飛んだ魔女セラフィナ・ベカラとそのダイモン、ハクガンのカイサは、アスリエル卿の脱出の際発生した大気の乱れにより、別世界へ飛ばされていた。そこでコールター夫人に捕まった魔女の話を聞き、彼女を助けるべく船に潜りこんだ。船の中で、魔法で身を隠すセラフィナは、夫人と教権機関の枢機卿たちが話しているのを聞いた。フラ・バベルと呼ばれた聖職者が真理計を読み、捕らわれた魔女がライラの秘密を知っていることを語る。そして真理計が、いまここにあるものとライラの持つもの以外は破壊されるか入手されるかで教権機関の手に全てあることを。コールター夫人による魔女の尋問に姿を隠したまま立ち会ったセラフィーナは、捕らわれた魔女がライラの運命上の名前を答える前に、その魔女自身が運命と受け入れた死を差し出さねばならなかった。子どもたちを助けにスバールバルに向かう前、魔女の領事館で正しいマツの枝を選んだライラこそは、魔女たちの待つ運命の少女だったのだ。
色々な情報を集めるセラフィナ。魔女の領事ランセリウスからは教権機関が大軍を集め、子どものダイモンを切り離す話。北極の凍土ではかってのアスリエル卿の従者ソロルドからアスリエル卿が教会に反抗し、しかし教会は弱すぎるので、その最強の相手、教会の神オーソリティを滅ぼすつもりでいることを。それは天使たちでさえできなかったこと。
様様な情報を携えてセラフィナは魔女の会議に参加した。各地から集まる魔女たち。そこにはラトビアの魔女の女王ルタ・スカジの姿、そして気球乗りのリー・スコズビーの姿もあった。
会議の席でルタ・スカジは、教会が人を管理しようとする恐ろしい所業を語り、せまり来る教会との戦争について、その反対側につくかっての恋人アスリエル卿と手を結び闘うことを誓った。リー・スコズビーは、かってライラから聞いたアスリエル卿の持っていたという生首の主スタニスラウス・グラマン、本当に死んでいるとは思えない、を探しにいき、彼から情報を得ることを語った。会議が終わりセラフィーナとその精鋭たちは、ライラを探すために、アスリエル卿を探すルタ・スカジとともに途中まで一緒に、北を目指し飛び立った。
ダストの話をウィルにするライラは、お互いの世界が微妙に違う言葉を用いるものの似通ったものであることを知る。そこへ聞こえてきたのは、子どもたちの声。誰もいないと思われた世界にふたりの子ども、女の子と男の子が現われたのだ。スペクターに襲われて逃げてきたという。アンジェリカとパオロと名乗る二人は、スペクターというおとなだけを襲う魔物に街を乗っ取られたという。姉のアンジェラは隠そうとしたが、パオロの話によると、もう一人、兄のトゥリオもともに逃げてきたらしい。
ウィルの世界のオックスフォードに戻った、ウィルとライラ。そこはライラの知るオックスフォードとは異なる世界。ジョーダン学寮はなかった。父親ジョン・パリーのことを調べるウィル。ウィルと別れ博物館で興味深いものを見つけるライラ。そしてライラが取り出した真理計に興味を示す男の出現。男をやり過ごすライラは、真理計の伝えるメッセージを読んだ。ウィルの父親を見つけることに全力を傾けろ。そしてまた真理計の伝えるもうひとつメッセージからライラは、ライラの呼ぶダストを暗黒物質と呼び、研究するメアリー・マーロン博士と出会う。彼女の研究室のコンピュータにつなげ、メッセージを伝えるライラに驚きを見せるマーロン博士。それはまさしく彼女の求める研究そのものだった。そしてライラは研究室のドアに書かれた易経の絵を見て、これもダストと接触するときに使えるいくつかの方法のひとつだと語った。
父親のことを調べるウィルは少しづつ父親の姿を知り、そして携えてきた緑色の革の文具箱にはいっていた父親の書簡を読むに至り、父親が自分の見つけた窓を見つけており、そして、まさに自分が以前母親が言っていたとおり父親の志をついで歩んでいることに気づく。
物語は、それぞれ進む。リー・コスビーはグラマン博士を求め、そして今やシャーマンとなった博士と出会う。そして、聞かされるグラマン博士の隠された真実。アスリエル卿との出会い、<神秘の探検>の秘密。そしてライラを愛し、守るために行なうリー・コスビーの行動。
ラフィーナとルタ・スカジはスペクターに襲われる人々を助ける。助けた男の一人ヨアキム・ロレンチから、かっては幸せの国であったこの地が300年ほど前から変わったことを聞いた。チッタガーゼにある<天使の塔>の自然科学者の組合(ギルド)のせいとも、自分たちが知らずに犯した大罪の天罰のためとも言われるが、どこからともなく突然スペクターが現われて信頼も美徳も何もかもなくなったという。そしてまた同時に北極を目指す天使の群れの話も聞く。そのとき、天使の群れが通り過ぎた。皆と別れ、天使の姿を追いアスリエル卿の元へ向かうルタ・スカジ。天使の話ではアスリエル卿が巨大な要塞を作り戦いに備えているという。
いっぽうライラは博物館で出会った真理計に興味を持つ男チャールズ卿に真理計を奪われてしまった。真理計を返して欲しければ、もうひとつの世界に行って短剣をとってこい。
もうひとつの世界、チッタガーゼの<天使の塔>で短剣を持つ若い男を見かけるライラとウィル。短剣の守り手である老人を助けたとき、先ほどの男が短剣を握り締め襲ってきた。必死に戦うウィル。最後に短剣を手にしたのはウィル。若者は逃げていった。しかしその代償としてウィルは指二本を失うことになった。しかし短剣の守り手である老人は、自らの二本の指を失った手をウィルたちに見せ、まさにウィルが次の短剣の守り手であることを告げる。そして短剣の持つ秘密力を教えられるウィル。
再びもとの世界に戻り、短剣の力を使いチャールズ卿から真理計を取り戻すウィル。その屋敷にはコールター夫人の姿があった。チッタガーゼの世界に逃げ戻ったライラとウィルを襲う子どもたち。先ほどの若者はやはりトゥリオであった。彼らを救うのは空から駆けつけたセラフィナ・ペカーラとその仲間たち。
一方、オックスフォードでライラが出会った研究者マローン博士は、ダストがコンピュータを使い伝える言葉に従い行動を起こす。コンピュータを破壊し、窓を通り抜けた。


果たしてウィルは父親を見つけ、出会うことができるのか。そしてまた魔女を捕らえライラの運命の名を知ったコールター夫人は、スペクターを操り・・・。
そしてまたライラが行方不明となった。


あらすじ長すぎですね。ネタバレはないように注意したつもりですが・・
天使や、そしてスペクターという魔物が新たに現われ、そしてまたウイルというもう一人の主人公。登場人物のそれぞれのキャラクターも立ち始め、本当におもしろく読めた一冊。さて最終巻はどのように進むのか、期待と不安入り混じりです。


蛇足:しかし、ライラがウィルと初めて出会い、真理計を読み取り下す評価”役に立つ。信頼できないし、ひきょう者かもしれないけれど人殺しは、仲間にするに値する”はいかがなものなのだろう。すごく実利的。たしかにイオレク・バーニソンのようとは言ってはいるものの、すくなくとも”信頼”はあるべきなのでは。