女王様と私

女王様と私

女王様と私

女王様と私歌野晶午(2005)☆☆★★★
※[913]、国内、現代、小説、ロリ、オタク、ニート、DV、妄想、ミステリー


ネタバレあり!未読者は注意願います。

正直、読む価値のない本。以上 終わり。


というくらい、どうでもいい本。常々語る通り、ぼくは物語が好きで、物語はやはりきちんと物語してくれなくては困る。
この作品は、誰もがヤラれたとその仕掛けを賞賛する「「葉桜の季節に君を想うということ」の作家歌野晶午の話題作。昨年(2005年)夏に出版され、賛否両論あり、あるいは感想不可とか、ネットでもいろいろ評されているけど、まぁこれは確かにネタバレしないで書くのは難しい。ネタバレというかオチは歌野晶午またかよ、の反則技。「葉桜の季節〜」で期待して読んでみたら、あっけなく失望させられた「世界の終わり、あるいは始まり」に近いオチですな。はははは(力(ちから)なく笑う)。
作品の主人公真藤数馬の妹絵夢が使う、ろぉりぃたぁ言葉(言葉の語尾の母音を延ばす際などに小さい表記を多用して使うとか)の表記が「らしい」とか、ここまでこの世界を書き上げたのはスゴイとか妙な部分を評価している論も見られるけど、結局あのオチでしょ。それも途中で自らネタバレするし。この作家のやる気がどこにあるのかわからない。ネタバレ後に推理を展開させても、意味ないじゃん、何でもありじゃん。あのネタ(オチ)でも、読者をきちんと納得させるルール(規制)が提示され、それに則った物語が語られているならば、それはまたべつの意味で別世界を構築したファンタジー作品だったのかもしれないのだが、そういうワケでもなかった。

真藤数馬。ニートでオタク、ロリのデブ。高校中退以来、まともに働くこともなく親のスネを囓り、ネットとジャンクフード、そして趣味の世界にのめり込む日々。ある日、愛する可愛い妹絵夢を連れ日暮里の街に出かけた。そこでひとりの少女に出会う。ロリ、デブと罵倒されながら、その美少女来未(くるみ)に言われるがままに行動する数馬。渋谷のフランス料理、銀座の寿司と高価な料理を奢らされ、あるいは六本木ヒルズで有名な小龍包の店に延々と並ばされる。なかなか入手できないアイドルグループのコンサートチケットを入手するために、夏の暑い盛り、公衆電話のボックスででチケットセンターへの電話を何度も繰り返す。そんななかで、いままで強気な態度だったを見せていた来未の態度が変わった。以前、同じ小学校だった仲のよい友人が殺されたという。そして、その事件について手がかりになるかもしれない情報を持っているのだが、警察や親に言えないという。相談にのるうちに、さらなる殺人事件が起こり・・。次々と起こる連続殺人事件に巻き込まれ、犯人扱いされる数馬。数馬の運命は?そして連続殺人犯の正体は?


主人公、数馬が唯一自分を理解し、愛してくれると信じる妹、絵夢は作品でも早くに語られるとおり強化プラスチック(FRP)製の身長30cmの人形。ほかの誰にも聞こえない彼女の声を数馬だけは聞くことができ、誰も見ることのできない彼女の動くさまを彼だけが見ることができる。それは絵夢が数馬の運命の妹だから。つまり絵夢は、数馬の強い想像のなかでのみ生きる人形であり、ある意味、もうひとりの数馬、分裂した数馬の人格であるとも言える。反則気味であるが決して悪い設定ではない。うまく描ききってくれるなら。ぼくは、ほかの誰にも見えない、聞こえない、その人のみが構築する世界に生きる人間とか、人形とか、小人とかは、破綻なくきちんとその世界を構築することさえできていれば決して否定はしない。それは例えば「だれも知らない小さな国」(佐藤さとる)の、せいたかさんの心のなかにのみ生きるコロボックルであり、あるいは「南くんの恋人」(内田春菊)のちよみであったりする。ちなみにコロボックル物語は、それが故一作目は高く評価するのが、二作目以降、コロボックルの存在を描くことに終始する物語はそれほど評価しない。
そうしたなかで、作品冒頭で数馬の妹、絵夢が延々と子ども服のブランドをまくしたてるところにどう決着をつけてくれるのか、ぼくはそこに期待していた。結局、そこはまるきっり触れられていないので肩すかしというか、世界が破綻した。すごい数のブランド名が出てくる。たまたま年頃の娘がおり、ふだんぎゃあぎゃあ騒いでいるのでぼくもそれらの名前の幾つかを知っていたが、普通に生活をしていたら知らない世界。いわゆる一般的に有名なブランドとは一線を画した世界。少女の服に詳しく、ロリータ趣味のある数馬が少女ファッション雑誌を購読しているという設定なら、それはそれで納得がいく。しかし数馬は、作品で出会う数馬の女王様、来未(くるみ)がその手の雑誌に出ていることに言われるまで気づかず、またあわてて雑誌を確認する始末。これは、数馬がふだんその手の雑誌を見ていない、あるいはネットでもそういう情報を集めていないという証拠ではないだろうか。そうなると絵夢の知識はどこからくる?
ファンタジーの難しいところは、こうしたちょっとした綻びが見つかると、それだけでその世界を信じられない、構築した世界が音を立てて崩れるように思える読者がいるということ。ぼくは、残念ながら、この世界から弾き出された。いや、世界がぐらぐらと音を立て崩れそうに思えていても、さらにその世界の崩壊をつなぎ止めるだけの物語の力があれば、この作品の評価が変わる可能性もあるのだが、この作品にぼくは「物語」を見つけられなかった。


故にぼくは、この作品になんらの価値を見いださない。
読まなくていいです。


蛇足:なぜかひっかりなく読めてしまった絵夢の話すロリータ言葉。ぼくにはそれほど気になる存在ではなかった。(すごくムカつく人もいたようだが)。
ただ、もしこれが横組みだったら、
『 T=、ζ,〃ωレヽま流行(?)σ≠〃ャ儿文字をイ吏ゎれT=レ)しτ、とことん厶ヵ⊃レヽT=ヵゝTょ』(←ひどいねぇ、コレ。読めないよ。(苦笑))
(=たぶんいま流行(?)のギャル文字を使われたりして、とことんムカついたかな)
いや、ロリータ言葉程度でよかった、よかった。
蛇足2:表紙、裏表紙の見返しの文章。各ネット本読み人が言及しているが、確かに作品読了後読むと、こんなところにまで、と凝った作りに感心する。しかし、そこに語られている内容(怪獣大辞典?)は作品の中の世界と全然、噛まないといいうのはどうなだろう?数馬が特撮好きとは読みとれなかった。・・というより、彼は何のヲタクなんだ?
蛇足3:親愛なるでこぽんさん、数馬の妹、絵夢の正体まではネタバレのうちに入らないのではないでしょうか?と、言い訳をしてみます。個人的には彼女にはもっと生命力(リアリティー)を与えられ、もっと活躍して欲しかったです。