ミス・ジャッジ

ミス・ジャッジ

ミス・ジャッジ

「ミス・ジャッジ」堂場瞬一(2006)☆☆☆★★
※[913]、国内、小説、野球、メジャーリーグ、ピッチャー、審判


正直、可もなく、不可もなく。いや、もう少し明るくてもいいかなと思える点では、ちょっと不満。以前「約束の河」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/1884997.html ]を高く評価し、この人の作品を読もうと書いておきながら、読んだのはこれが二冊目。この本の後ろに挙げらた著作を見ると、スポーツ物が多いよう。もし、この路線で書かれているなら、まさにスポーツ観戦のような作品。つまり見る(読む)楽しみ。それ以上の深さは感じられなかった。最後も、うまく余韻を残したと言えばそうなのかもしれないが「とりあえず、この話はおしまい」みたいに感じられなくもなかった。よくもわるくもスポーツ読み物。そういう意味あいで、読むのがよい。


たった一球のミス・ジャッジが、米大リーグで活躍を期待される日本人投手の調子を狂わせた。この球は8回までストライクだったはずだ。しかし、審判はボールだと宣告する。そんなバカな。微妙なコントロールを売り物にしてきた俺はどこに投げればいいんだ。


米大リーグのレッドソックスに入団した橘由樹は、日本で行われたオープン戦で、高校、大学の先輩であった竹本の名前を見つける。二十年に一度のピッチャー、橘にとって常に目の上のたんこぶ、越えられらなかった先輩。しかし竹本は大学時代のある試合で肩を壊し、その姿を消していた。そんな竹本が大リーグの審判として目の前に現れた。ロッカールームへ向かう通路で、声をかけられる橘。最後にあってから十年以上経つのに、相変らずの傲慢な態度。俺より偉い奴はいない。そんな竹本であるから、大リーグの審判となったデビュー戦でもあっさりとジャッジに文句をつけた監督を退場させた。
そして第二戦。レッドソックスの二番手投手として登板した橘。九回まで完封に抑えていた。しかし、八回までストライクであったコースをボールと判定された。勝負球を否定され、急に両手を縛られたように感じる橘は、調子を崩し、逆転満塁サヨナラホームランを浴びる。何なんだ、これは。
物語は、この後、調子を崩し、チームともうまく行かなくなっていく橘の物語と、橘との因縁を持つ、傲慢な審判、竹本の物語が対比して描かれる。立ち直っていく橘に対して、ずるると堕ちていく竹本。そして竹本の堕ちるきっかけとなったのは、知り合いの記者に漏らしてしまった橘の不用意な発言だった。


レッドソックスの同僚であるピッチャー、ギブソン、キャッチャー、マルチネス。大リーグマニアの橘の妻、美野里といった、魅力ある脇役は登場するものの、絶対的な書き込みが不足している。そのため、結局は橘と竹本、二人だけの物語に終わる。二人だけとはまさに、橘だけ、竹本だけという意味で、二人の間の因縁がそれぞれの人生に影響を与えてはいるものの、結局それぞれの物語で終わっており、ふたつの物語が融合することはなかった。少し苦味のある、大人の男たちの物語。オビに「キャッチャーを挟んで孤独な二人!」とあるが、まさに「孤独な」物語。これはこれでありなのだろうが、二つの物語は最後にまた交錯して欲しかった。高校時代から十数年続くふたりの間の確執が、あっさり解決してしまう必要はないが、橘の信じる「ミス・ジャッジ」から物語が始まるのであれば、最後は少なくとも竹本のジャッジは必要であろう。


たった1シーズンだけの物語。ふたりがこの先どのようになるのかわからない。しかし、この作品はまさにこの1シーズンを切り取っただけの作品故に、読み物としては読める作品だが、そこまでしかない。そこで良いのか、それとももう少しを求めるべきなのか。個人的には「人の成長」の兆しが読める作品であっただけに、もう少しが欲しかった。


蛇足:表題ほど「ミス・ジャッジ」に拘ってないのが、ちょっと惜しい。