The MANZAI 1

The MANZAI 1 (ピュアフル文庫)

The MANZAI 1 (ピュアフル文庫)

The MANZAI 1」あさのあつこ(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、青春、中学生、友情、漫才、成長


※あらすじあり、未読者は注意願います。


困ったなと思った。実はこの作品、数ケ月前に一度読み、好印象を持っていた品。レビューを書かなければと思いながら、手許にあるため、つい先延ばしにしていた。9月に3巻が出たので、1、2巻を再読してみた。あれ?内容をすっかり忘れていたことに気づく。あぁ、こういうディティールだったのだ。再読しでも、好印象は変わらなかった。しかし、そういう評価する作品でも内容を忘れるというのはどうなのだろう。重くずっしりした小説ではないとはいえ・・。


「バッテリー」で孤高な少年を描ききったあさのあつこが送る中学生の男の子の物語。今度の作品は、同じ中学生の男の子を主人公とするが、「バッテリー」とは違い、人に出会い、仲間として学校生活を送ることで成長し、変わる男の子の物語、あるいは彼をとりまく人間の物語。明るく生きる少年少女にもそれぞれに、それぞれの事情を抱えながら、たくましく生きる。ありがちな青春小説のひとつであるが、気持ちよく読むことのできる作品。青春小説とはかくあるべし。


中学二年の秋、転校して一ケ月の十月、やっと学校にも慣れたぼく、瀬田歩は学校の駐輪場に呼び出された。そして「おつきあい」を申し込まれた。冗談だろ?
相手は同じ二年三組のがたいのいい、正直怖いと思っていた秋本貴史、次期サッカー部のキャプテンとうわさされている男だ。男!ぼくがいくら背が小さく、やせっぽちとはいえ、おつきあいするなら女性のほうがいいに決まっている。ちぐはぐな会話を交わすうちに、秋元のおつきあいとは漫才コンビの相方になって欲しいというものだった。ぼくは君のことを知りません、だからぼくは君の相方にはなれません。そういって断るぼくに執拗に懇願する秋本だった。
湊市に引っ越してきたのは、父と姉を交通事故で亡くし一年が経ったころ。一周忌を過ぎたとき、母が家を売り、生まれ故郷に戻りたいと言ったから。母にとって暮らしやすい地に戻ることに異存はなかった。
父と姉の死はぼくが原因だった。中学に入学してから疲労がピークになったというか、明確に何と言えない理由から登校拒否になったぼく。きっかけはもしかしたら、先生のひとことだったかもしれない「ふつうじゃないぞ」。ふつう、ふつうって何だろう。中学一年の6月半ばから不登校になったぼく。夏休みの宿題もすべて終えたぼくだったが、二学期を目前にしてまだ学校に行く気になれず、そのことを両親に伝えた。その途端、父は怒鳴り、そして父と母はいさかいを始めた。姉が気分転換にと父を連れ出してくれた。そして事故は起こったのだ。
そんなぼくに、秋本はふつうじゃなくていいじゃないか、おもしろいのが一番なんだと迫ってくる。お前を最初にみたときからピンと来たんだ。な、やろっ。
強引な秋本に押し切られるように文化祭のクラス発表「ロミオとジュリエット」にふたりで出演することになった。ふつうじゃおもしろくないから漫才でやろう。提出した用紙をみて、中学生らしくないふざけたものと考える学校。演劇発表のリーダー的存在である女生徒、クラス委員長の森口はこの劇を成し遂げたいと思っていた。それは数年前、森口の兄が同様に学校のおもしろく思わないロックステージを行おうとして文化祭直前につぶされたことに起因する事件に戻る。兄が兄らしくなくなった。
目立たないように、ふつうの生徒として生きていこうと思ったぼくが秋本との出会いで、新たな友人たちと交流を持ち、少しづつ変わり、成長していく物語。


登場人物がいい。サッカー部次期キャプテンをうわさされる割に、相棒と見込んだ歩に腰くだけな秋本。実は彼の家庭にも事情がある。歩をとても気に入るお好み焼き屋「おたやん」を経営する秋本の母親。そして秋本の幼馴染で、歩がほのかに想いを寄せる美少女萩本恵菜。彼女は歩の想い空しく秋本に想いを寄せているのだが、秋本は気づかない。時折、秋本の家の店を手伝う彼女は、歩を恋のライバル視している。
文化祭の出し物を巡り親しくするクラスメイトたち。クラス委員長の森口は、てきぱきと物事を進める女の子。そんな森口に片思いの、同じクラス委員長の高原は学年トップの秀才。蓮田は秋本と同じサッカー部。ほかにも目立たないけど、一生懸命ジュリエットのドレスを縫う女の子とか、それぞれの顔が思い浮かぶような作品。最近読んだ、同じ青春小説の「カンニング少女」と違い、生き生きと中学生活を送る登場人物たち。できれば無気力そうな江河先生をもう少し書いてほしいところ。


さて、歩と秋本の漫才コンビはこのあとどうなるのだろう?


久しぶりに安心して万人にオススメできる青春小説。タレントの記述等、ちょっと時代に拠りすぎている部分。コテコテすぎて笑いきれないネタなど、決して万全な作品とは言えないのだが、それでも気持ちいい青春小説として皆にオススメしたい。気軽に、楽しく「読む」一冊。


蛇足:「クローズド・ノート」(雫井脩介)(オススメ![ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/34588163.html ]にも触れられていた理由なき登校拒否。いじめでも、何の原因でもなく学校に行きたくなることってあるんだな、と思わされた。そういうとき無理強いはいけないと頭では知っているが、忍耐強く待つことできるだろうか。多様性を認めたく思うものの、やっぱりぼくも「ふつう」をふつうに思ってしまうのだろう。この作品を読んでちょっと思った。
蛇足2:山本幸久「笑う招き猫」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/6231142.html ]を好きな方にもオススメの一冊・・かな?