The MANZAI 2

The MANZAI 2 (ピュアフル文庫)

The MANZAI 2 (ピュアフル文庫)

The MANZAI 2」あさのあつこ(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、青春、中学生、友情、漫才、成長


※あらすじあり、未読者は注意願います。(っていうかほとんどあらすじ)


The MANZAI 1」に続く第2巻。文庫本のページからこぼれたマクドナルドのレシートをみると2006年3月28日。5ケ月前に読んだんだ。1巻に続き再読してみて実感したのは、この作品がとても気持ちのいい青春小説だということ。素敵な仲間に囲まれた主人公の瀬田歩。でも現代という世の中は、決して素敵なことばかりではない。悪意を自らの姿を隠しぶつける人。弱いものに当たる人。そうした人がいるという現実を踏まえ、少年少女は生きていく。そんなうまくない現実も含め、作家の優しく、厳しい目は少年少女の生活を生き生きと描く。


前年、学校に渋い顔をさせた(しかし、観客には大受けだった)文化祭での演劇「漫才ロミオとジュリエット、ほんまは、あんたがアホやねん」のおかげで、三年に進級したとき、「ロミオとジュリエット」に関わった主要メンバーはクラスが別々にさせられら。そんなわけで秋本とぼく、瀬田歩もクラスは別になったのだが、秋本はそんなことおかまいなし。今日もぼくの部屋にあがりこみ、漫才の相方になれとしつこくせがみ、八月の地区の夏祭りのステージに出ないかと誘う。秋本の家のやっているお好み焼き屋「おたやん」に町内会長の三瀬さん、和菓子屋の癖に餡子よりクリームが好きだという困ったおじさんが(こどもの頃、餡子の中に落ちて死にかけたらしい)、やってきたという。去年の文化祭で観た「漫才ロミオとジュリエット」がおもしろかったので、特設ステージで漫才をやってくれと頼まれたので引き受けたという。君が、だれとどんな約束をしたのかしらないが、ぼくは君と漫才はやりません。
そんなぼくらのところへ、秋本の幼馴染で学校一の美少女、萩本恵菜と、ロミオとジュリエットで采配を振るった森口京美がやってきた。萩本、通称メグは、といってもぼくは面と向かってメグなんて呼べず、影でこっそり呼んでいるのだが、秋本に思いを寄せる、一本筋の通った女の子。美少女であることをひけらかすような真似はまったくなく、ある意味竹を割ったような性格。困ったことは、ぼくのことを秋本を巡る恋のライバルだと信じていること。ぼくは密かにメグに好意を抱いているというのに、。森口は、ロミオとジュリエットのときは、きっぱりと物事を進める女の子だと思ったが、どうも「恋と愛とエロ」にすべてを捧げる文学少女のよう。ぼくと秋本の仲を、誤解し、理解しているつもりで、そしてメグを加えて三角関係をおもしろがっているから困る。そんなぼくらに母さんは手作りのケーキを出してくれた。母さん、ケーキ作りをまた始めたんだ。父さんと一美姉さんを事故で亡くした、ぼくら家族の心の傷も少しずつ癒えてきているのだろうか。
雨の夜、コンビニに牛乳を買いに行くぼくは、公園でひとりの浮浪者に声をかけられた。腹がへって死にそうなんだ、何かないか。牛乳代しかもってなかったぼくは、ごめんなさいと呟くだけだった。男は、笑い、すまなかったと去っていった。
コンビニの前で、クラスメイトの来菅と出会った。秋本のことを聞いてきた。来菅は萩本に告白して振られたという。萩本は来菅に、秋本のことが好きだと言ったという。自分が振られたことを信じられないとでもいうような態度、そして秋本の家庭の事情を話す来菅に、ぼくは言ってしまった、秋本は人の陰口をたたいたりしない。萩本は本当に秋本を好きなんだ。
翌朝、事件は起こった。萩本の下駄箱にウシガエルが入れられていたのだ。もっとも子供のころから爬虫類好き(カエルは両性類だけど)のメグにとっては何の効き目もなかったのだが、。
人の悪意を如実に見せられて、ぼくの気持ちは乱れる。しかし素敵な仲間がいることで救われた。
「おたやん」にみなで集まり、話をした。表面上は落ち着いてみえる学校も、一皮剥けば嫌がらせやイジメがごろごろしてる現実。生徒が学校に行けないで苦しんでいるのに、何もしないわけにはいかない。森口の台詞に思わずぼくは答える。しなくていい。学校なんてそんなに必死になってまで通うところじゃない。自分が壊れちゃいそうになるまで頑張っていくところじゃない。自分がどこかほっとできる場所があるなら、学校なんて、苦しんでまで
行くところじゃない。
男子が、女子をそれぞれに家に送っている間、ぼくはひとり「おたやん」の片付けを手伝うことにした。そこへ現れた酔客が、秋本のおばさんにひどいことを言う。思わず、口を出してしまったぼく。丁度、秋本が戻ってきてくれたので事なきを得たが、なぜ人は自分より弱いものにつらくあたるのだろう。そんなぼくに秋本は、笑わせようぜ、みなをげらげらと笑わせようぜと肩をたたくのだった。
平穏に過ぎていく日々。秋本と公園でメグのことを話した。秋本はメグに妹のような感情は持つものの、それは恋愛感情とは違うという。しかし、ぼくに対しては本気だと・・・。だから、その話しはやめろ。男同士の恋愛は成り立たない。常識じゃないか、フツーに考えれば・・。
当たり前、常識、普通。ぼくはまだ囚われている。
そんなぼくらの前を、たまたま自転車で通りかかる来菅。茂みから突然現れた浮浪者に驚ろかされ、横倒しになった。ばつの悪さをとりかえすように、浮浪者に暴力を振るいはじめる来菅。あわててとめるぼくと秋本。露骨な暴力をふるう場面に遭遇し、ぼくは気分が悪くなった。情けない、呟くぼくに秋本は答える。みなが情けなかったら、戦争とかもないかもな。
そしてまた事件は起こった。雨の夜、雑誌を買いにコンビニに向かうぼくが見かけたのは、公園から弾き出されるように飛び出てきた人の姿。来菅?怯えるように、逃げ出すような何かが公園にはあるのか。そこでぼくが見つけたのは、いつかぼくに声をかけてきた浮浪者が血だらけで倒れている姿だった。
こんなことをする犯人は誰だ?翌朝、学校に警察がやってきて事情を聞かれた。ぼくが仲間に話すのを聞きながら、秋本は言う。来菅はそんなことをするはずない。あいつは優しいんだ。そしてぼくは来菅の家を訪れることにした・・。


「漫才」がテーマのはずの作品だが、本作でも漫才と関係なところで事件は起きる。普通のことって、何だろう。本作でも主人公である歩は自問する。いい意味で、これは中学生の青春物語。男の子と女の子が、こんなに仲良くできるのも、同じ地域に住み、幼い頃から知っているということも大きいのだろう。それはやはり中学までか。いろいろな想いに揺れ、そしてまたいろいろなことが分かってくる時期。こういう時期に素敵な仲間とめぐり合えた彼らを羨ましく思う。前巻に引き続き、登場人物がくっきりと描かれ、生き生きしている。本巻ではとくに学校一の美少女メグが、その外見とはうってかわった男らしい性格を前面に出して、おいしい。腰のはいったパンチが見事。
歩の母も秋本の名前を何度も間違えるなど、ぼけキャラぶりを発揮する。また趣味のケーキ作りを再開させるなど、すこしずつ生きていくことに前向きになってきたようだ。歩も、ふつうの女の子には全然もてないが、なぜかおばさんにはやたら受けがよいなど本筋の物語だけでない横顔を見せ、人間像の幅を広げている。
とても素直でわかりやすい物語。中学生という思春期の時期を素直にまっすぐ生きていこうという少年の姿を、優しい眼差しで切り取った作品。ただ、少し残念なのは秋本がいい子すぎる点か。未熟な主人公をサポートする役目だから致し方ないのだが、ちょっと大人に過ぎるかな。それだからこそ安心して読めるのだが・・。


前巻に引き続き、オススメの一冊。気軽に青春小説を楽しみ、少しだけ考えよう!そんな一冊、いやシリーズ。さていよいよ三巻の出番。果たして今度こそ彼らの漫才は聞けるのだろうか?聞きたいような、聞きたくないような・・・。