ナンバーワン・コンストラクション

ナンバーワン・コンストラクション

ナンバーワン・コンストラクション

「ナンバーワン・コンストラクション」鹿島田真希(2006)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、文学、第135回芥川賞候補作


正直に言って、よくわからない。理解できないというのが正解かもしれない。
あまりにわからないので、ネットで他の人の感想をいくつか覗かせてもらった。しかしあまりピンと来なかい。
「本を読んだら・・・byゆうき」のゆうきさんが「わたし、純文学って苦手なんですよねー。」と率直にその感想を述べていらっしゃったが、同感。純文学のなかの純文学という感じ。これを理解できたり、感覚的に共感、共有できる人は、やはり限られた人ではないだろうか。「建築史」という閉じられた学問の世界が、この作品のひとつテーマになっている。しかしあまりに説明が不足している。ぼくは、建築史という学問の学問上の位置や、またその内容(概要)が全然分からないので、この作品が取り上げた日本の建築史の代表的な建物や、その建物を語る主人公たちの言動から、何を読み取っていいのか分からなかった。概ね、実在のあの建物、あの建築家ということを類推することはできる。しかしぼくは、それらの建物、建築家のバックグラウンドを知らない。また作家も作品のなかで説明すらしない。おそらく近代日本の建築動向が目指したもの、象徴しようとしたものが少しでも分かっていると、この作品の理解度はぐんと深まるのだろう。しかし、もはや読了し、なんら心を動かされることがなかった作品をぼくは敢えて理解をしようとは思わない。
作品が読者を選ぶなら、読者はもちろん作品を選んでも構わないし、理解してあげようなどと不遜な態度で臨む必要もない。理解したい、なら別だが。
建築史は、決して遍く人々が既知の情報として共有している知識ではないとぼくは思う。その意味でこの作品は読者を選んでいる。潔くわかる人にだけ開いている。この作品はそういう作品だと思う。だから、ぼくも潔く降参しよう。すみません、わかりません。


「君は、アイザック・アシモフ氏のロボット工学三原則を知っているか?」「私も建築三原則というのを考えてみた」若手建築史家のS教授のもとに、M青年というひとりの青年が師事することとなった。「僕ならその三原則を女に当てはめますけどね」苦し紛れに答える青年。もともと小説家を目指していたM青年は、学部時代に華々しくデビューを飾ることを夢見たが、夢破れ、しかしいまだ小説家になる夢を捨てきれない。小説を書くための時間を享受するためのモラトリアムを確保するために、研究生としてS教授のもとを訪れた。M青年の素直な説明を聞き、頷くS教授。「小説家いいじゃないか。論文を「ところで、君は恋愛は得意かな?」
ある日、M青年がS教授に連れて行かれたのは、大学の教授には似つかわしくないスタンド式のカフェ。実はS教授はそこで働く不器用そうな少女に恋をしているというのだ。41歳の教授が、少女といえる若い娘に。、
ある日、S教授を少女を待ち伏せした。そして恋を告白する。舞台の台詞のような会話を交わす二人。
少女が家に戻ると、そこにはS教授と同じ大学でフランス文学を専門として非常勤講師として働くN講師が家で待っていた。少女とN講師は、幼い頃からの顔見知りで、婚約者。少女の母親は、訳知り顔で、あるいは計算高く、娘とN講師の仲をとりもとうとする。わざと少女にひどく当たるN講師。そしてS教授が、少女に恋をしていることを知ったN講師は、少女とM青年の交換をS教授に持ちかける。N講師が、少女に遺書を書かせていることを知ったS教授は、少女の命を守るためM青年をN講師に譲るのだった。
一方M青年も、昔からつきあう女性と同棲をしていた。彼よりも立派なたくさんのボーイフレンドがいるという彼女は、しかしつかみきれない彼に翻弄される。生と死、赦し、愛、男と女、プライド。
S教授を中心とした、建築史、都市論を踏まえた5人の人々の物語。


※あらすじ、少しいい加減です。すみません。


冒頭に出てくる「建築三原則」から物語が派生するわけでもなく、またS教授の恋が成就するわけでもない。(もっとも、S教授は新たな恋の予感を見せるのだが・・。)古臭い舞台のなかの台詞を思わせるような、それぞれの人物の内省的な台詞。しかし、それは建築史に素養がないぼくだからか、まったく共感を持ち得ない。建築史は理系なのか、文系なのか?N講師の思惑で、S教授の研究室からN講師の研究室に移されるM青年。研究室を変えることって、そんなにたやすいのだろうか?また、もともと本人の希望で建築史の研究室に入ったはずなのに、指示する先生の思惑だけで、研究室は変えられるものなのだろうか。先にも少し述べたが、あたかも古臭い舞台のような物語の流れ。それを納得させるだけの説明も不足している。


久々に、太刀打ちできない作品だった。薄い一冊なので、とりあえず読んでみたというところか・・。
無念(苦笑)


蛇足:この本を理解するのに、役立つかもしれないブログ
たまねぎさんの「今更なんですが本の話」[ http://blog.livedoor.jp/sintamanegi/ ]2006/9/2「ナンバーワン・コンストラクション」[ http://blog.livedoor.jp/sintamanegi/archives/50715481.html ]の記事に、この作品でとりあげている有名な建築家、丹下健三氏の作った建築物について、写真や解説で紹介するHP(ホームページ)に触れています。作品を読む前に、見ておかれると、理解度が違うかもしれません。