刑事の墓場

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刑事の墓場

「刑事の墓場」首藤瓜於(2006)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、刑事者、推理


「脳男」で2000年、第46回江戸川乱歩賞を受賞した首藤瓜於の最新作。密かに「脳男」と本作の間にもう一冊出していたらしいが、気づかなかった。ユニークな作家名が印象的だったので、図書館の新刊リストに並んでいたのを何気なく予約した。その後、あまりにもベタなタイトルに、予約画面を確認しながら少し躊躇していたのだが、やはり予約放棄すればよかったかなぁというのが正直な読後感。丁度この前に読んだ「ユグラドジルの覇者」(桂木希)に比べれば、まだ「まし」なのだが、どうにも古臭い推理小説、刑事小説。そしてご都合主義的すぎる。少なくともいまどき刑事がひとりで勝手に捜査することはありえない。それも点取り主義的な出世を望む主人公であればなおのこと。いくら「お話し」であっても、仮にも江戸川乱歩賞受賞者が書く内容ではない。いや本格的な刑事ものを書くつもりはないのだと仮に作家が思っていたとしても、読者はもはやその程度のことは、刑事もの、あるいはミステリーの常識と知っている。この分野の小説を書くにしては安易とか、勉強不足とか誹られても仕方ない。


動坂署に送られた者はそれ以降一切日の目を見ることはない。「刑事の墓場」と県内の警察官に呼ばれる動坂署。民間企業から警察へ転職し、警察機構のなかでの出世を目論見、当時の上司の言う通り勤めてきたひとりのエリート刑事、雨森が動坂署へ異動させられた。何かの間違いに違いない、いつか呼び戻してもらえる。そう信じ込み、アパートも決めず赴任以来当直室に泊り込む雨森。
向ケ丘弥生署と枇杷橋署という中規模署にはさまれたごく狭い区域が動坂署の管轄。しかし大きな事件はそのふたつの署が捜査を担当し、捜査本部も置かれることが慣例で、事件らしい事件は起こらない。表立った処分をできないものを収容し、定年まで隔離する施設という噂もあながち嘘ではないのかもしれない。赴任して1ケ月、仕事らしい仕事をしない刑事たちの姿を見て雨森もそう思わざるを得なかった。動坂署は署員総勢二十数名の小さい署で、そのなかの刑事課の面々は、所長の桐山にはじまり、課長の鹿内、強行犯一係係長梅垣、その部下の猪俣、鶴丸、知能暴力犯係係長蝶堂、その部下一柳、そして雨森が強行犯第二係長となる。また鑑識係には桜葉という、顔に酷い火傷の傷を持つ年齢不詳の男がいた。


とてもいまどきのミステリーとは思えない。花札かよ、という刑事たちの名前。県警の厄介署である動坂署というひとつの器に集められた、同じキーワード(花札)で括られる名前を持つ厄介者の刑事たち。それだけでひと昔前のドラマのよう。巷で噂されることをあたかも肯定するかのように、仕事らしい仕事も一切しようとしない彼らが、雨森という闖入者(ストレンジャー)の登場によって変わり、刑事として成長する物語、ならまだしも、どうもそういうわけでもないようだ。署管轄で殺人事件が起こる。そこに政治的な陰謀が絡み、かってないことに動坂署に捜査本部が置かれることになった。動坂署が失敗したときには、税金食いの役立たず署として署を潰し、跡地を地場の有力者の希望どおりに売却しよう。ある警察幹部の思惑。ひとつの秘密を抱えた動坂署の面々は協力して殺人犯を捜査する。雨森はスパイじゃないのか?果たして動坂署の面々は真犯人に辿り着けるのか。動坂署は潰されずに済むのだろうか・・。


とにかく古臭い物語。起こる殺人事件の原因は痴情のもつれ。きちんと伏線を張った真犯人の謎とその謎解き。絵に描いたような、警察内部での軋轢。いまどきの作品とは思えない正統派な物語。いや、これは褒め言葉ではない。伏線は張られたものの決して、論理的、合理的な犯人への推理ではない。結果として、なるほど確かに伏線はきちんと張られていたと思うものの、安直な設定というしかない。そして、最後に明かされる動坂署の秘密。って、これ何?悪い冗談?そんなことは絶対ありえない。
正直、読む必要をまったく感じない作品。何かが起こる、何かがある、と期待して読んだだけ損をした気分。
いや、むかしの推理小説の雰囲気を楽しむという意味での楽しみ方はあるのかもしれない・・・。

追記:漫画ならいいんだよ、これ。もっと漫画的な小説に徹すれば、。読み物、娯楽作品(エンターティメント)としての道は残されていたと思う。(2006.oct.31)

蛇足:酒場でアルバイトをしていた女子大生に懸想をする男の物語。清楚で美しいその女子大生に惚れ込んだ挙句、マンションまで用意してやった自転車屋の主人。それを幼馴染が揶揄し、横恋慕し、起きる事件。清楚な女子大生が酒場でアルバイトする時点で、もはや、おじさまの小説。清楚で純真無垢な女子大生は酒場でバイトなんてしないってば。こういう設定がもはや古臭いんですよ。しかし、女はしたたかだ。
蛇足2:タイトルに似合う、ハードボイルドな作品が読みたかった。今回のレビューは、スランプに加え、二作連続の不作で投げやりかもしれない・・。すみません。