小学生日記

小学生日記 (角川文庫)

小学生日記 (角川文庫)

小学生日記」(角川文庫版)hanae*(2005)☆☆☆☆★
※[913?]、国内、作文、小学生、少女、エッセイ


「はい」と手渡されたのがこの一冊。「なに?」「小学生日記、とても小学生とは思えないほどの文章だよね」何気なく手渡された一冊の文庫。本の名前は聞いたことがあり、評判もよいということは知っていた。しかしタレントが書いた、それも一種独特の雰囲気を持つ少女モデルの作品にそれほどの期待はしていなかった。いや正直、どうせまた幼いタレントをもちあげた評判だろうと思い込んでいた。


え?なに?そこには紛れもない等身大の少女がいた。いや確かに小学生のこども(という表記が、「夜のパパ」(マリア・グリーペ)を読んだあとで使う言葉としてふさわしいかどうか別として)が書いた文章としては整いすぎているという評は外れていない。しかしここにはひとりの正真正銘名の少女が、まさに生きて存在している。少女モデルとかそんなフィルターはただ邪魔なだけ、ふつうの小学生の女の子の日常生活。勿論、感受性鋭く、何気ない日常生活を独自の視点で観察し、捉え、それを言葉にできている時点で「ふつう」の小学生とは違うのかもしれない。しかしこの「作文」のなかにいるのは、紛れもなく創られたものでない、生きた現実の少女の姿だ。


普通のオヤジなので芸能界はかなり疎い。それでもhanae*という少女モデルの存在は気づいていた。その太い眉とちょっともてあまし気味の長い手足、そして一番印象深かったのは WOWOWオリジナルドラマ「4TEEN」(石田衣良 原作)に出演していたときの彼女。まさに原作小説に出てくる少女そのままだった。
現在中一のうちの娘の買ってくるファッション雑誌に出てくる、小・中学生のくせに似合わない化粧をキラキラしているような少女モデルたちとは一風変わった、ありのままの少女。エキセントリックとは、少し違う。唯一無二という意味での「ユニーク」という言葉が似合う存在。今ならロハスとか口にするような人が気に入りそうなモデルだよなぁ、そんな風に思いながら、でもそれほど気にもとめていない少女だった。


そんな彼女の「小学生日記」が話題になっていたのは、丁度、文庫が出版された昨年あたりだろうか。ネットの書評で、幾つかよい評価がされているのは気がついていた。しかし昨年度「このミス大賞」特別奨励賞を授賞した「殺人ピエロの孤島同窓会」(水田美意子)http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/38250045.html を、『「12歳」の呪縛から逃れられない一冊なのだ』と評し、出版界の若い年齢による文学賞授賞ラッシュ、ブームのなか、作品でなく、作家が、それもその年齢のみが取り沙汰され、騒がれる風潮に嫌気がさしていた時期と重なったのかもしれない。あるいはさらにタレント本という(この場合その修飾詞はまったく不要だったのだが)条件が重なったからなのかもしれない。まったく食指が動かされなかった。


あぁ、もったいないことをした。この本はもっと早く読んでおけばよかった。先入観と偏見、思い込みで読むのを避けてしまっていたのは無意味だったなぁ。もちろん、早く読もうが、いま読もうが素晴らしいという感想は変わらない。ただ偏見で避けていたことは、もしこうして無造作に渡されることがなければ出会わないで終わったかもしれなということ。出会えてよかった一冊。


正直、エッセイ集や短編集の類はあまり得意でない。この本も16の作文と、単行本の際のあとがきと、文庫本の際のあとがきの計18の文章からなり、ちょっと疲れた。
hanae*という少女の生活を切り取ったという意味では関連し、しかし、それぞれが別々にあるという意味では単独の作品たち。正直、玉石混交。文章を書いた時点で、出版を意識したわけでなく、ただの作文として書かれたもの。たぶん彼女が書いてきたいくつかの作文のなかから選ばれたものであろうが、出来不出来はそれぞれの作品によって違う。
しかし、そのすべてを読み終えたことで、このhanae*という少女、現実の少女の魅力にくらくらやられそうになってしまう。モデルという特殊な立場にあるはずなのに、ただただ普通の少女の生活を楽しむhanae*。モデルという仕事と、日常の切り分け。あるいはモデルの仕事も日常の続き。妙な勘違いをしていない、ごく普通の少女の生活。
作品から読み取れる家庭環境は複雑といわれるようなそれののようだが、彼女は普通の生活として、それを受け入れる。塾に通う話。移動教室の夜、女の子だけで盛り上がる話。両親と京都に旅行をする話。
そんななかでやはり秀逸なのはアメリカでずっと暮らしていた兄が日本にもどってきて、夏キャンプを過ごすことで仲間を見つけ、日本語を身につける話「モトイと日本語」(読売新聞社主催 第五十一回全国小・中学校作文コンクール東京都審査会 読売新聞社賞受賞作品)。そしていつもにこにこしてるのだけど、教室で先生に当てられると黙りこんでしまう友人との交流、そして彼女の家庭の事情による別離を描いた「ポテトサラダにさよなら」
」(読売新聞社主催 第五十二回全国小・中学校作文コンクール 文部科学大臣賞受賞作品)。
あるいは友人とのった昼間の電車で見かけた、ある事件。それを見なかったかのようにする大人と、毅然と対応する若い女性、そして友人の姿を描く「昼間の電車」。移動教室の夜女の子だけで集まり話すことの楽しさ、今まで知らなかった友人の姿を描く「移動教室」。母親と駅で待ち合わせたはずがいつまでたっても現れない母親。心配と不安。そしてまたいるがずのhanae*がいないことで母は警察に知らせていた「ひとりでまっていた日のこと」
これらの作品に書かれる、主人公であるhanae*の姿は背伸びをしていない、そのままの女の子なのだ。


小説が「話しを作る」ことの価値だとするなら、この本は小説ではない。まさしくひとりの少女の作文。でも、しかし、この作品に描かれる少女の姿はとても素敵だ。たぶん、きっと、どこにでもいるはずなんだけど、ね。


客観的には☆ひとつ落として☆四つにするが、これはオススメ。気軽に、さらっと読めてしまうが、とても気持ちいい一冊。たまにはこんな本もいいな。


蛇足:作文コンクールの審査員に後藤竜二の名前が現れ、びっくり。ぼくも大好きな児童文学作家。もっともhanae*の読み気に入った本をぼくは知らない。今度読んでみたい。そしてたぶんぼくが小学生のころ読んだ「天使で大地はいっぱいだ」をhanae*は知らない。続く「大地の冬の仲間たち」と併せオススメ。
蛇足2:まみみっくすさん、hanae*のほうが「papa told me」(榛野なな恵)の知世ちゃんのよう。教室で友人がみんなに囃したてられ、思わず「うるっせーんだよ!」と大声でキレたりしている。あぁ、だから好きなのかもしれない。