悪夢のエレベーター

悪夢のエレベーター木下半太(2006)☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、幻冬舎


この本を読もうと思ったのは新聞広告だった。「ある日最悪の状況で、最悪の人たちと一緒にエレベーターに閉じ込められたら・・?」イラストは広角レンズを通し歪んだ画像を表現した四人の男女。出版社は「幻冬舎」。もしかしたら?期待を込めて図書館に予約をいれた。そして受け取ったのはソフトカバーの新書。?。新書?幻冬舎のハードカバーは今迄ハズレはなかったのだが・・。イヤな予感がした。


読了。とりあえず、最後の最後にオチがあったので、まぁ、よし。いや、オチがなければどうしようもない一冊かもしれない。読んでいる最中は、ホント、トホホな気分であった。触れちゃいけない一冊に触れてしまった、そんな気分だった。
いや、おもしろくないわけではない。ただ、おもしろい、それだけの本なのだ。ぼくがよくレビューで使う言葉に「深み」という言葉がある。ぼくは、それがミステリーであれ何であれ、読書を通し、人生になんらかの影響を与えられることを望む。もちろん娯楽のための読書、読むことを楽しむだけの読書を否定するわけではない。しかしそれらを目的にする場合は、やはりそういう心持で読みたい。思いもかけず出会ってしまった場合でも、それなりのものを求めたい。残念ながら今回の出会いはタイミングが悪かった。ある閉ざされた空間における心理サスペンスを期待したところ、ドタバタC級コメディーミステリーに出会ったしまったというところ。もちろんそういう作品を期待して読んでいたらならばもう少し違う感想もあったと思う。なんせぼくはトカジ(戸梶圭太)を愛する人間なのだから。
決しておもしろくないわけではない。ただ、つまりは、そういうおもしろさだ。そういうものを期待される方はいいだろうが、あまりオススメではない。読み物というジャンルで見た場合も、もう少しが欲しい一冊。


思い出した、俺はエレベーターに乗ったんだ。
後頭部の強烈な痛みで目を覚ました小川の目に、三人の男女の姿が映った。安物スーツの無精ヒゲをはやした中年太りの男、オタクっぽいメガネ男、そして青い白い顔で黒いブラウスに黒いスカート、二十歳にも三十歳にも見える、左手首に包帯を巻き、右手にクマのぬいぐるみをぶらさげた、まる魔女のような女。ヒゲ男は不動産関係に勤めると語り、メガネ男はニートで、人の気持ちが見えるという。そして黒ずくめの少女は自殺をするためにこのマンションに来たという。
小川はあるレストラン・バーの副店長であった。今日はアルバイト・スタッフの送別会があり、副店長という立場上、仕方なく参加した。妊娠九ケ月の妻、真奈美が家で待っている。早く帰りたいという気持ちとうらはらに会は盛り上がっていた。そして泥酔したアルバイトをこのマンションに送りにくる羽目になった。そして真奈美から陣痛の電話があった。「順くん、やばい!」。急いで家に帰ろうと飛び乗ったエレベーターだった。
エレベーターが急に降下してその衝撃で頭をぶつけ、小川は気を失ったと三人は言う。ボタンを押してもエレベーターは動かない。そして緊急用インターホンも応答なし。携帯電話で外部に連絡をとろうにも、自分の携帯電話は見つからない。ひげの男の携帯は充電切れ。メガネの男は携帯電話を持ってこなかったという。それではと、大きな声で叫んでもだれも助けに来る様子はない。閉ざされたエレベーターで起こる出来事。彼らは無事、脱出できるのか。そして小川は妻の出産に立ち会うことができるのか。
果たしてこのエレベーター事件は、実は仕組まれた事故であった。その真相はどこに?そしてそれはだれの陰謀なのか?


作品は三章立てとなっている。物語の進む順番に、登場人物の視点を変え進む。第一章「小川の悪夢」、第二章「マッキーの悪夢」、これはメガネ男の視点、そして第三章は「三郎の悪夢」これはヒゲ男。そして物語はこれだけで終わるわけでない。第四章以降はインターネットのブログに連載されているとのこと。レビューを書いている2006年12月1日現在、まだ連載は続いているようで、第五章に突入している。小説とインターネットのコラボレーション。ただ正直、インターネットに続きを連載する必然を覚えない。だらだらといつまでも続けるより、どこかできちんと切り、まとめることも「小説」としては、必要だと思う。ネットというメディアで、書き手と読み手の双方向のつながりを意識しているのかもしれないが、個人的にはあまり感心しなかった。本書で見事にオチがついたところで、すっぱり終わるほうが、潔い。