神の箱舟

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「神の箱舟」高野裕美子(2006)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー(?)、中国、軍事兵器、高校生


本書オビより
「今の世の中何が起きたって不思議じゃない。スラップスティック・サスペンス 中国有人宇宙衛星打ち上げ成功の陰で、実はとんでもない極秘兵器が、、、、」
「中国初の有人宇宙衛星・神舟5号打ち上げの成功の裏で、世界が度肝を抜くナノテク兵器・携帯型ミサイル誘導装置が開発されていた。その名は<光矢>。
この極秘兵器が強奪され、中国当局の必死の探索の網の目をぬって、なんと、日本の女子高生の手に渡ってしまう、、、、、。フィクションが現実を先取りするか!
今や、西欧に互して宇宙開発の優位に立ち始めた中国が、虎視眈々と狙うスペース覇権をテーマに描くサスペンス長編の傑作。」
これ本当に傑作?それに奪われるのは極秘兵器というよりミサイル誘導装置だろ?


オビを見ると香ばしい匂いのする、軍事機密平気に係わる緊迫したサスペンスを予想させるのだが、読み始めるとどうにも平板。緊迫感がまったくない。その大きな理由は、スペース(宇宙)覇権、あるいは世界覇権?を担うキーとなるはずの中国の軍事兵器の脅威がまったく感じられないこと。物語のほうはどんなににスラップスティックなものであろうが、まず前提となる脅威がきちんと描かれ、読者に納得されなければこういう秘密兵器の奪い合い的ドラマは、始まることさえ出来ないのではないだろうか。


ひょんなきっかけから中国当局の開発した巡航ミサイル照準・誘導装置を手にいれた女子高生朝倉未来、そしてその友人千石ゆかりと中国当局との追いかけっこの物語。
中国当局の動きを阻む、台湾国家を愛する台湾マフィア<新竹会>のメンバー、あるいは女子高生に何の気なしにミサイル誘導装置をあげてしまった、100円ショップを経営する宝永商事に務める中国駐在のうだつのあがらない中年社員末広英輝、その友人で自分は選ばれた人間だと思い込み、自分の利のためなら会社の機密を売ることさえもまったく気にしない、ナノテク産業を目指すNKアトラスの社員小田切晃一、そして小田切の妻に依頼され、小田切の浮気の証拠を集める探偵会社<レディーホーク>の調査員六篠理沙などの面々を加え、スラップスティック(どたばた)な追いかけっこが始まる・・・


一歩間違えば、中国当局という巨大な権力の陰謀というシリアス・サスペンスの物語にもできたし、あるいは渋谷の街を根城にたむろするいまどきの高校生を前面にだした、おちゃらけスラップスティック・コメディーにもなりえた作品のはずなのに、そのどちらにも寄ることなく、ただ坦々と追いかけっこが続く物語。冒頭に書いたとおり、追いかけっこの元凶となる秘密兵器(誘導装置)の持つ脅威が、作品を通してあまり感じ取れないことが一番の敗因。有人衛星のエピソードを描きながら、標的はどうも巡航ミサイルの誘導装置のよう。宇宙を舞台にした脅威なのか、はたまたいわゆる一般的な軍事兵器の脅威なのか、それも明確に感じられず、ぶれている。もっともこれはきちんと読み込めば解決できるものなのかもしれないが、通勤電車のなかで読んでいる限りは、なんだかよくわからず、ただ漠然とした「中国の秘密兵器」にしか過ぎなかった。しかも、GPSで追いかけられるはずの腕時計型誘導装置が、電源を切られると追跡できないとか、所持している人間がわかっているのに、どこか悠長としているとか、こういう作品ならではの手に汗握るドキドキハラハラが感じられない。結果として、かなり酷い言い方をあえてさせてもらえば、小学生の作文のようなただ坦々とした追いかけっこを読まされる。
中国の地名を、きちんと中国語読みでカナをふったりとか凝っているところもあるのに、あまり感心できなかった作品。


これはくそ忙しい日々のなか、きちんと読み込めなかった読者の責任なのだろうか?そうだとしたら、ごめんなさい。