パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々2−魔海の冒険−

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々〈2〉魔海の冒険

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々〈2〉魔海の冒険

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々2−魔海の冒険−」 リック・リオーダン(2006)☆☆☆★★
※[933]、児童文学、現代、ファンタジーギリシア神話、児童読み物


「盗まれた雷撃」に続くギリシア三大神のひとりポセイドンと人間の母親の間に生まれた「ハーフ」、パーシー・ジャクソンを主人公とした第二弾。今回もお馴染みとなった仲間アテナの娘アナベスとともに、同じくお馴染みとなった仲間サテュロスグローバーを救いに、そして同時にハーフ訓練所の危機を救うためにパーシーの冒険が始まる。今回はなんとパーシーの学校の友人でホームレスの少年タイソンも仲間に加わる。図体はでかいが泣き虫の怖がり、そんな彼の正体は実はキュクロプス(ひとつ目巨人)だった。そして彼はある神とニンフのあいだに生まれたこどもだった。そしてその神とは・・。


あとがきで訳者は、「神話」を持たない国アメリカとイギリスは、神話を持たないがゆえにファンタジーを書きたがると記すが、成程と思う。「盗まれた雷撃」のレビューの際にも触れたが、世はまさにファンタジー・ブームである。他の国と比べ英米という国の文化がわが国に入りやすいこともあるが、確かに最近書店を訪れると昨今の英米のファンタジーの書籍が目につく。それらの作品のなかでどれだけの作品が「生き残っていく」のかは、なんとも想像もつかないが、しかし「ゲド戦記」「ナルニア国物語」「指輪物語」といったいわゆる「名作」が、いまだ昨今の新しい作品とともに堂々と並べられているのをみると、ことファンタジーというジャンルにおいては名作はまさに不朽であることを知る。個人的に評価しつつ、あるいは一部のファンタジーファンには高く評価されていても、一般的に知名度の高くない「闇の戦い」シリーズ(スーザン・クーパー)が最近、新装版が発売されたことも嬉しい限りだ。
さて、そうしたファンタジー作品のなかで本作品がどういう位置に落ち着くのかは、この先の話となるが、モチーフとして既存のギリシア神話を現代アメリカに持ってくるという試みはおもしろい。既存の神話を下敷きにするということは、ファンタジー作品にはよくあることだが、ギリシア神話の神々とそしてその神々の住むオリンポスを、エンパイアステイトビルの秘密の高層階に持ってくるというぶっとんだアイディア。そして現代アメリカに移り住んだ神々は、しかしいわゆる古来からのギリシア神話の神々のままであり、決して徒によれて「人間らしく」はなっていないことが、この作品をありがちな作品から一線を画すものとする。「神の考えることは人間にわからない」。あくまでも我々人間が理解しにくい「神々の論理」で神は行動を起す。たとえば、それは主人公パーシーを含む神々があたりかまわずそこいらじゅうでつくった(言い過ぎ!)たくさんのこどもたち。ありがちな作品であれば、人間の母と神の間に生まれた主人公にとって、父たる神は人間としての母への愛を貫き通すものであろうが、この作品は違う。異母兄弟がちゃかっり現れてしまう。その存在を手紙という手段で現す父親であるポセイドンは、しかし神々の常であるように、意味深いような言葉一言を主人公に伝えるのみ。簡単なヒューマニスティックなドラマにはなっていない。その辺りの乾いた感覚がぼくが本書を手に取るきっかけっとなった装丁のポップなデザインとともに心地よい。ただし、装丁、イラストは米国のものではなく日本人の手によるもののようである。


さて、物語は前作同様にいわゆるお使い方の冒険譚。主人公パーシーが仲間二人とともに、友人であるグローバーを救い、あるいはハーフ訓練所を守る松の木を救うため、それは訓練所を救うことを意味するのだが、前作で倒した敵の復活を願う仇敵ルークの邪魔を退け、あるいはアレサの娘で、パーシーのことをおもしろく思わないクラリサとも冒険に成功する物語。舞台を現代のミステリアス・ゾーン、バミューダー海域に持ってくる辺りも、ありがちで新味はあまりないが、悪いものではない。


本書もいい意味で、前作同様にこどもが読むにおいて楽しい読み物である。次回作以降に持ち越される「16歳までに生き残るビッグスリー、ゼウス、ポセイドン、ハデスのこどもに気ををつけろ。危険な武器になるかもしれない」という予言。それは現在13歳であるパーシーのことなのだろうか?そしてまたパーシとその予言を分かつ人物が最後に現れる。


物語のひとつの形式である「行きて帰りし物語」。気持ちよく読める冒険活劇。本書一冊をとりに成長があったかどうかというと微妙であるが、シリーズを通し、楽しくおもしろい物語を通し、いわゆるふつうの人間界で劣等生であったパーシーが成長していく姿を期待できる作品。
いまの段階ではファンタジー作品として、あるいは大人が読む作品としては決してオススメできる作品ではない。しかし例えば楽しい読み物として、本書を読むことで次はギリシア神話に興味が派生することも期待して、こどもに薦めるにはよい作品かもしれない。