九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば

「九月が永遠に続けば」沼田まほかる(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ホラー、サスペンス、ミステリー、第5回ホラーサスペンス大賞受賞

あぁ、やっぱりホラーなんてやめとけば良かった。読んでる途中、何度放り出しそうになったか。読了後も、なんだか胸くそ悪い。ホラー好きの人ってこういう作品が好きなのか。どろどろとした人間のイヤなところを見せつけられた。最後まで読んでミステリーの謎が解かれても、誰も解放されない。登場人物の成長を促すための事件なら許せる。しかしこれは傷つくだけの事件。なんかなぁ。
文章、構成は確かに完成度が高く、巧い。第5回ホラーサスペンス大賞受賞のデビュー作だそう。その点を考慮すると低い評価はつけない。しかしオススメはしない。こういう世界は嫌いだ。こういうジャンルの小説の存在を否定するわけではないが、ぼくはやっぱりダメだ。

精神医の安西雄一郎と八年前に離婚し、高校生のひとり息子、文彦と暮らす41歳の主婦、水沢佐知子が主人公。元夫に捨てきれない想いを抱え、元夫の新しい家族の高校生の娘、冬子がつきあっている犀田という若い教習所教員と関係を結ぶ日々。それは元夫、あるいはその娘へのささやかな復讐なのかもしれない。
ある日、ひとり息子文彦がゴミを捨てにいったまま姿を消してしまった。どこにいってしまったのか?
息子の行方を捜す佐知子の一週間。

自分の身近に起きたことがないので、どうもリアルな共感を感じないのだが、こうした失踪って事実としてはあるのだろう。北朝鮮による拉致事件とか、小説で読む自分から失踪する人。混乱、困惑そして心配で気も狂わんばかりの想い、残された者の気持ちを想像すると同情を禁じえない。・・はずなのだが、この作品では身勝手な主人公に共感ができなかった。

主人公、佐知子。そのひとり息子、文彦。主人公の元夫、雄一郎。ある悲惨な事件で心に深い傷を持つ雄一郎の新しい妻、亜沙実。亜沙美とともに事件に遭い、同じく心に傷を持つ亜沙実の兄。亜沙実の娘冬子。冬子とつきあう若者、犀田。信頼できると信じていた息子の担任、越智。疑心暗鬼と、新たな事件、そして知られざる真実。閉じられた濃密な人間関係の中で渦巻く愛憎。この作品はどろどろしたものが詰まっている。
患者に入れ込み、結婚する元夫の精神科医としての職業倫理観もさることながら、べらべらと語りまくる登場人物たち。そんなに簡単に人の秘密を語っていいのか?皆がそれぞれに隠したい秘密を共有するとんでもない人間関係。う〜んん、関わりたくない。

最後に、今まで佐知子を心配し、いろいろとよくしてくれた服部、文彦のガールフレンド、ナズナの父を佐知子が突然受け入れる。とってつけたようなシーン。それまで佐知子は、この心優しい、しかしどこか無神経な男に生理的な嫌悪感をもっていたはず。その気持ちが変わるような出来事も、心の動きも書かれてない。

なんで、こんな作品読んでしまったのだろう。やっぱり、ホラーは近づかないほうがいいのだろうか。